遺言:【遺言書には何を書く?その①】法的効力をもつ「法定遺言事項」とは
遺言書に書けること
遺言書は、基本的には何を書いてもかまいません。
遺言書の作成方法は民法で定められており、法律的に有効な遺言をするには、その定めにしたがって作成しなければなりません。
また、法律の定めにしたがった形式で遺言書を作成したとしても、書いた事項が何でもかんでも法律的に認められるわけではありません。
法律的な効力をもつ「法定遺言事項」と、法律的な効力の無い「法定外事項」に分けられます。法定外事項は、「付言事項」と呼ばれます。
法律的に効力を発揮する「法定遺言事項」には、大きく分けて「人に関する事項」「財産に関する事項」「遺言の執行・撤回に関する事項」「その他の事項」があります。
法定遺言事項
人に関する事項
1.認知(民法781条2項)
認知(にんち)とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)を、自分の子であると認めることをいいます。
認知は、遺言でもすることができます。
2.未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条1項、848条)
未成年後見人とは、未成年者の“親権”を行う者が誰もいなくなってしまった時に、親権者の代わりにその未成年者の監護教育や財産管理を行う人のことで、家庭裁判所から選任される後見人のことです。この未成年後見人を、遺言で指定しておくことができます。
また、未成年後見人が行う事務を監督する役割を担う家庭裁判所から選任される未成年後見監督人も、遺言で指定しておくことができます。
3.相続人の廃除・廃除の取り消し(民法893条、894条2項)
相続人の廃除とは、被相続人が特定の相続人の相続権を奪う制度で、虐待や侮辱または不貞行為などの著しい非行があった場合に、家庭裁判所に申し立てて相続権を剝奪します。
遺言書で申し立てる場合は、遺言執行者が家庭裁判所に請求します。
すでに廃除した(推定)相続人を、もう一度相続できるようにする推定相続人の廃除の取り消しも、遺言によってすることができます。
財産に関する事項
1.相続分の指定・指定の委託(民法902条)
民法で定められている「法定相続分」とは異なる共同相続人の相続分の割合を、遺言で指定することができます。
2.特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
特別受益とは、生前に他の相続人と比較して格別に受けた恩恵(生前贈与など)のことです。遺言で何も書かれていなければ、民法で規定されているとおりに法定相続分に持戻しされます。この持戻しがされないようにするのが特別受益の持戻しの免除です。
3.遺産分割方法の指定・指定の委託及び遺産の分割の禁止(民法908条)
相続人ごとに受け継ぐ財産を指定することができます。「土地甲は長男に、車両Zは次男に」というように指定する場合です。自分で指定する以外に、第三者に指定させることもできます。また、5年を超えない期間を上限として、遺産の分割を禁止することも可能です。
4.相続人相互の担保責任の指定(民法914条)
相続人相互の担保責任とは、相続した遺産に欠陥があった場合、相続人はそれぞれの相続分に応じて、その欠陥がある財産を相続した相続人が被った損害を賠償する責任を負わなければならないことをいいます。この担保責任の負担者や負担割合について、遺言によって指定することができます。
5.遺贈(民法964条)
遺贈とは、法定相続人以外の者に、遺言によってその財産の一部、または全部を贈与することです。財産の内容を特定せずに全部、あるいは財産全体の何割、何分の何といった割合を指定する「包括遺贈」と、財産のうちの特定のモノを指定する「特定遺贈」があります。ただし、「遺留分」についての注意が必要です。
6.遺留分侵害額の負担割合の指定(民法1047条1項2号ただし書)
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障されている、遺言によっても侵害することのできない最低限の遺産を受け取る権利のことです。遺留分を侵害された相続人は、「遺留分侵害額請求」という方法で遺留分に相当する財産(金額)を請求することができます。
遺言書で、遺留分侵害額の負担の指定がなければ、遺留分を侵害している者が受け取った遺産の価額の割合に応じて返還することになりますが、返還されるべき財産の割合(金額)を指定したり、返還されるべき遺産の順番を遺言で指定することができます。
7.一般財団法人の設立・財産の拠出(一般社団・財団法人法158条2項)
遺言により、一般財団法人を設立することができます。遺言書に、一般財団法人の設立が定められている場合には、遺言の内容を実現するために指定される遺言執行者等が、設立に必要な手続きを行います。
8.信託の設定(信託法3条2号)
信託とは、委託者が受託者に財産の管理や処分をさせることをいいます。信託の設定は、遺言を作成する人が委託者となり、財産の管理や処分を家族や信託銀行などの受託者に委託することです。
遺言の執行・撤回に関する事項
1.遺言執行者の指定・指定の委託(民法1006条1項、1014条4項、1016条1項、1017条1項)
遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために必要な手続きを行う人のことで、多くの場合は遺言者が遺言で指定します。自分で指定する以外に、第三者に指定させることも可能です。また、複数の者であったり、法人も遺言執行者となることができます。
2.遺言執行者の報酬(民法1018条1項)
遺言で、遺言執行者の報酬を定めることができます。遺言者が定めていないときは、家庭裁判所が報酬を決めます。
3.遺言の撤回及び取消し(民法1022条)
遺言者は、生前においてはいつでも、民法の定める形式の遺言によって、その遺言の全部または一部を撤回することが可能です。
その他の事項
1.祭祀主催者の指定(民法897条1項ただし書)
祭祀主催者とは、祖先の祭祀(供養)を主催する人のことをいいます。具体的には、お墓や位牌、仏壇などの管理、葬儀や法要などの主宰などです。祭祀主催者は、遺言で指定することができます。指定がなければその地方の慣習で決め、慣習が明らかでなければ家庭裁判所が決めます。
2.保険金受取人の変更(保険法44条1項)
遺言によって、生命保険の受取人を変更できることが、平成22年4月1日から施行された保険法によって明文化されました。